こんばんは。
前回は脳を異物から守る3種のシステムについて紹介しました。
脳は大切に守られている
中でも血液脳関門 (BBB: Blood Brain Barrier) は、医薬品の脳への到達をも妨ぐために新薬開発の障壁となっていることを強調しました。
本日は医薬品を必要な場所に必要な量を届ける “Drug Delivery System”という概念の意義について紹介したいと思います。
なぜDrug Delivery Systemは必要か?
必要な場所に必要な量の医薬品を届ける Drug Delivery System (以下DDS) 。まず、私がこの分野に興味を持った以下の動画をご覧ください (お時間ある方は)。
まだ実用化には至っていませんが、集束超音波とマイクロバブルを用いてBBBを一過的にこじ開けるというユニークな方法です。ある学会でこの動画を目にして、とても心躍ったのを覚えています。
このようなDDS技術の目的は「医薬品の主作用の最大化、副作用の抑え込み」です。
主作用の最大化
医薬品が主作用を発揮する上で重要な2つのこと
- 標的分子と強い相互作用をすること
- 標的分子の駆動力が最小化 (もしくは最大化) する医薬品濃度が分子近傍に存在すること
①:標的分子との強い相互作用
下図を用いて説明させてください。
2つの化合物AとBの違いは右側側鎖の△と⬜︎です。標的分子には△の方が結合しやすそうですよね?したがって化合物Aの方がより強く作用して分子の駆動力を阻害 (もしくは活性化) することが期待できます。
Drug Discoveryの初期段階ではHTS (High Throughput Screening)等の手法により、より強い相互作用をする化合物を選抜していきます。
参考 HTSWikipedia②:標的分子近傍における医薬品濃度
標的分子と強い相互作用をする化合物を見出しても、私達の身体には「薬効」として表れないことがあります。下図を用いて説明させてください。
標的と強い相互作用をする化合物Aを貴方が服用したとします。ある一定の時間が経つと、身体の至る所に化合物Aが分布します。
標的分子が細胞膜に局在する場合、標的分子と相互作用する上で重要なのは下図のどの部分の濃度でしょうか??
答えは細胞外濃度です。どれだけ、血液中や細胞内 (組織内) に化合物が存在していても相互作用できるのは細胞外の化合物だけなのです。このように標的の近くにある化合物Aの濃度を標的近傍濃度と呼びます。
ホネくん
ミソ先生
副作用の抑え込み
また化合物Aが標的とする分子は、1つの臓器にのみ発現するとは限りません。次の図には標的分子が脳と心臓に発現する場合を示しています。
重要なのは発現する臓器によって全く異なる作用を示す可能性があることです (脳では薬効を示すのに、心臓では毒性を示す)。
このようなオンターゲットな副作用が懸念される場合は、そのほとんどが臨床試験に進まずドロップアウトすると思います。しかし、心臓への到達を完全にシャットアウトするDDS等があれば、化合物Aが医薬品候補化合物として復活する余地はあるのかもしれません。
ホネくん
ミソ先生
まとめ
- DDSの目的は医薬品の「主作用の最大化」と「副作用の抑制」
- DDSは医薬品を標的分子の近傍に意図的に送達することで「主作用を最大化」する
- DDSは医薬品の副作用発現臓器への到達を低減することで「副作用を抑制」する
主作用や副作用が発現した場所=医薬品が届いた場所
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