鼻から脳への薬物送達ーNose to Brain Deliveryー

新年度が始まりました。自分も社会人4年目となり、中堅社員?です。

本日は私が昨年、一昨年とこだわってきた鼻から脳への薬物送達手法ーNose to Brain Deliveryー (以下N2B Delivery) について概略を紹介します。少しでも興味を持ってくださる方が増えれば喜ばしいことです。

鼻腔内に投与された薬物の運命

これまで当ブログでは、脳に薬物を到達させるアプローチを2つ紹介しました。

  1. BBBを介する非侵襲的アプローチ (生体内機構を利用)
  2. BBBを壊す侵襲的アプローチ (直接脳内に投与する等)
血液脳関門を介する3つの輸送経路 脳への薬物送達 ① ー侵襲的アプローチー

N2B Deliveryはどちらのタイプにも当てはまらない、BBB非介在型の非侵襲的アプローチです。 

とはいえ、馴染みが深い点鼻薬は鼻づまりやアレルギー対策に利用されているので、「鼻 to 脳」のイメージはあまり湧かないかもしれません。

鼻腔内に投与された薬物は3つの経路を辿ると考えられています。

①:鼻腔内の毛細血管から全身へ

皆さん一度は “鼻血” を出したこと、ありますよね?

鼻をかむだけで鼻血が出るように、鼻腔内には多くの毛細血管が張り巡らされています。したがって、鼻腔内に投与された薬物は鼻粘膜を通過した後に、毛細血管から吸収され、全身に到達することが可能です。

経口投与で胃腸を通過して吸収されるよりも素早く吸収されるのが特徴で、鼻腔内投与の利点として “即効性” が挙げられます。

②:食道へ流され、消化管から吸収

鼻腔は外界と繋がっているため病原菌等が容易に侵入することができます。生体外異物から私たちの身体を守るシステムが鼻腔内には備わっています。

それが “鼻水” です。

鼻水は鼻腔内を湿らせる役割を担うだけでなく、鼻水は食道方向に流れており、鼻腔内に投与された薬物も一緒にクリアランスしてしまいます。

memo
この除去機構は “粘液繊毛クリアランス” と呼ばれる。気道上皮にも同様の機構が備わる。

③:神経を辿り、直接脳へと到達

そして最後の経路こそが “N2B Delivery” となります。鼻腔内に張り巡らされた二つの神経を介して、脳に直接到達します。

嗅覚神経経路

私たちが様々な匂いを感じるために働いている “嗅覚神経” が第一のN2B Delivery経路です。鼻腔内の嗅覚上皮に到達した薬物は張り巡らされた嗅覚神経を介して、脳の嗅球と呼ばれる部位に到達します。

参考 嗅神経wikipedia

三叉神経経路

三叉神経痛などでご存知かもしれません。脳から三叉に分かれて眼・鼻、上顎、頬などに分布している知覚神経の “三叉神経” が第二のN2B Delivery経路です。実際に解剖してみると分かるのですが、とても太い存在感のある神経です。

鼻腔内の呼吸上皮に分布し、呼吸上皮に辿り着いた薬物は三叉神経を介して脳の延髄 (橋) に到達します。

参考 三叉神経wikipedia

Nose to Brain Deliveryの現状は厳しい?

現在、N2B Deliveryをコンセプトとした点鼻薬は上市されていません。N2B Delivery実用化の障壁は “種差” だと私は考えています。

基礎研究が積み重ねられていますがそのほとんどが “げっ歯類” での検討であり、“サルなどの大動物” で試験された例は少ないです。実際にサルで試験をすると全く脳の薬効標的部位へ到達しないという結果も得られています。

これらの結果は “鼻腔内構造の種差” に起因すると考えられていますが、真の要因は分かっていません。一つ一つ可能性を潰していくために、N2B Deliveryに適したナノキャリアや投与デバイスの開発研究が行われているのが現状です。

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国内大手製薬企業では1990年代からN2B Deliveryを実用化するべく試行錯誤していたようです。 言い過ぎかもしれませんが「一度レッドオーシャン化して手放された」そんな位置付けの研究領域と私は捉えています。

ホネくん

一度レッドオーシャン化した研究分野なので、脳移行性の種差を克服するような技術の台頭を待っているわけですね。
そうじゃが三叉神経経路についての研究はまだまだ少ないので、非げっ歯類でのN2B Deliveryの存在を確かめるには三叉神経に着目するのがミソかもしれんな

ミソ先生

ホネくん

とにかく、サルでの試験が増えてくれれば研究が進みそうですね。
研究資金が潤沢な企業側が本腰を入れて着手しないと実用化は進まんかもしれんな

ミソ先生

脳食いアメーバが鼻から侵入?

しかし、ヒトでのN2B Delivery経路の存在を支持する (と私は感じた) こんなニュースもあります。

参考 脳を食べるアメーバ、温暖化で生息域が拡大中WIRED

鼻腔内から侵入したフォーラーネグレリアというアメーバが嗅球に到達し、やがて脳全体を食い荒らすといったものです。大変恐ろしく、不幸なニュースではありますが、N2B Deliveryの可能性も示唆しているように取れます。

ジャストアイディアですが、DDSキャリアとして自走能の付与が鍵になるかもしれません。

まとめ

  • Nose to Brain DeliveryはBBBを介さない、非侵襲的な脳送達手法である
  • 鼻腔内に分布する、嗅覚神経と三叉神経を介して脳に到達する
  • サルやヒトなどの大動物では有効な結果が得られていない

鼻から脳への薬物送達には2つの神経経路が存在する

2018年は特に大きな進捗がなかった分野ですが、先日以下のような論文が武田薬品の研究グループから出ていました。

参考 Direct Drug Delivery of Low-Permeable Compounds to the Central Nervous System Via Intranasal Administration in Rats and MonkeysPharmaceutical Research

低分子医薬品を膜透過性や脳排出トランスポーターの基質性などで分類し、ラットとサルでN2B Deliveryの挙動を確認したというシンプルな内容でしたが今まで誰もやっていなかった研究です。

ラットまでは私も社内で確認していましたが、サルで検討できてしまうのが流石の武田薬品です。(論文化できたと思うと正直悔しい…)

2019年はN2B Delivery分野も進歩があるかもしれません。引き続きウォッチしていきます。読んでくださりありがとうございました!

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