血液脳関門を介する3つの輸送経路

いつもご覧頂きありがとうございます。

さて前回は脳に備わるBBB以外の関門組織について紹介しました。BCSFBと言いましたね。

脳を守るもう一つの関門組織 ー血液脳脊髄液関門ー

BCSFBの方がバリアーとしての機能が弱く、脳への薬物送達という観点では一見良さそうでした。しかし、BCSFBの表面積割合はBBBの1/5000に過ぎず、脳へ十分な薬物量を送達するにはBBBを通らざるを得ないことを強調しました。

本日はBBBを介した脳実質側への物質の輸送経路について紹介したいと思います。

医薬品は必ず “○○” を通過して患部に届く

皆さんは服用した医薬品が身体の中でどのような運命を辿って消えていくか考えたことはありますか?

そんな医薬品の生体内運命を探究する学問が薬物動態学 (Pharmacokinetics) で、医薬品の生体内での動きをADMEという4つのアルファベットでよく表します。

メモ
薬が身体に与える影響を調べる学問が “薬理学” で、身体が薬に与える影響を調べる学問が “薬物動態学” とも言われます。この表現が私は好きです。
  1. 吸収 (Absorption)
  2. 分布 (Distribution)
  3. 代謝 (Metabolism)
  4. 排泄 (Excretion)

詳細は、以下ありえってぃさん (@karigurashi01) の記事を参照ください。とても理解しやすかったです。

参考 薬って飲んだ後なぜ効くの? 薬物動態学とADMEについて薬学徒の仮暮らしブログ

さてここで質問です。

医薬品が全身を回る上で、通過しなければならないものは何?

それは “生体膜 (細胞膜)” です

例えば医薬品が小腸から血中へ入るときには腸管上皮細胞を、血中から脳へ入るときには脳血管内皮細胞を通ることになります (BBBも細胞膜ということですね)。

そんな必ずしも通らなければならない細胞膜と物質透過の関係については下図にまとめました。参考まで。

このように細胞を通過する2つの経路が知られていますが、BBBはどちらの輸送経路もブロックしていることを過去に紹介しました。

BBBの機能的特徴 ー密着結合とP糖タンパク質ー

BBBを介する3つの輸送経路

BBBを介した脳実質側への物質の輸送経路は大きく3つに分類できます。

①:受動拡散

強固に物質輸送を制限しているというBBBですが、多くの脂溶性薬物が脳内に移行することが知られています。その移行メカニズムは経細胞輸送による受動拡散で規定されます。

 その受動拡散に関わる因子として1) 分子量 < 400Daおよび2) 水素結合数 < 7 (水溶解時) といった2つの基準が設けられていて、創薬においてはin silicoでのBBB透過性予測にも用いられています。

メモ
化合物が脂質二重膜の疎水性部分に分配・溶解することにより膜を通過することを受動拡散と言います。

分子量閾値

BBBを通過する薬物の多くは分子量 (MW: Molecular Weight) が400Da以下の低分子化合物です。脂質膜を介した低分子の拡散過程には分子量閾値が存在し、閾値を超えた分子はその脂溶性から予想される膜透過性よりも実際の透過性は低値を示します (例えば下図No.24-27の分子)

引用
Levin VA. J. Med. Chem. 23: 682-684 (1980)

水素結合

BBB透過性において重要なパラメータとして水溶解時の水素結合数が考えられています。Pardridgeらの研究によると、6種のステロイドホルモンの水素結合数とBBB透過性の相関性を示し、水素結合が7以上の分子は受動拡散を介した膜透過が悪くなると述べています。

引用
Pardridge WM., Mietus LJ. J. Clin. Invest. 64: 145-154 (1979)

ホネくん

このような縛りもあって、細胞間隙を無理やりこじ開けるようなDDS研究もされているんですね。
密着結合を壊してしまうのは一過性と言えど、危険はあると思うんじゃ。過去記事参照。

ミソ先生

脳への薬物送達 ① ー侵襲的アプローチー

②:取り込みトランスポーター (CMT: Carrier-mediated Transport)

これまでの話だけを聞いていると、こんな疑問が浮かびませんか?

チョコレートを食べて脳にブドウ糖補給とか言うけど、糖分は脳にどうやって入っているの??

グルコースやアミノ酸などの極性を有する必須栄養素などは、受動拡散によって脳内に移行することはできません。

 

それらの脳内への取り込みはCMTシステムで行われ、その実態はSLC (Solute Carrier) トランスポーターファミリーです。基質認識性が広く、多くの内因性物質を輸送するため、医薬品の脳内送達にもCMTシステムを利用する試みがされてきています。

アミノ酸を模倣したパーキンソン病治療薬のL-DOPAは、アミノ酸トランスポーターLAT1 による効率的な輸送をコンセプトにした医薬品です。

最近だとグルコーストランスポーターを利用した以下の研究が注目されています。

参考 グルコース濃度に応答して血中から脳内に薬剤を届けるナノマシンを開発科学技術振興機構

③:トランスサイトーシス

上述した受動拡散およびCMTシステムは低分子化合物を輸送する機構であり、タンパク質やペプチドのような高分子化合物はトランスサイトーシスにとって輸送されることが知られています。

トランスサイトーシスはエンドサイトーシスにより取り込まれた高分子が商法のまま細胞の反対側へ輸送されエキソサイトーシスによって放出される機構であり、2つの経路があります。

Receptor-mediated Transcytosis (RMT)

RMTとは細胞膜に発現する特異的な受容体にリガンドのなる高分子が結合することが引き金となり、エンドサイトーシスが引き起こされる機構です。例えば、インスリントランスフェリン (鉄の輸送に関わる) の脳内供給を担っています。

JCRファーマ株式会社がこの機構を利用した技術を開発し、ライソゾーム病を中心に臨床開発を進めています。詳細は述べませんが、下記のリクルートページは非常に胸が熱くなりました。

参考 JCRファーマの挑戦JCRファーマリクルートページ

Adsorptive-mediated Transcytosis (AMT)

AMT正に帯電した高分子と負に帯電した細胞膜の電荷的な相互作用により誘導される機構であり、例えばポリカチオン性のペプチドはAMTを介してBBBを通過することが可能です。そのコンセプトからCell-penetrating Peptidesといった10から30のアミノ酸から形成されるカチオン性ペプチドを用いた薬物の脳デリバリー研究が盛んです。

しかし、RMTと比較して組織特異性に乏しい特徴があります。

以下にトランスサイトーシスによって輸送される分子を示します。

引用
Pardridge WM. J. Cereb. Blood Flow Metab. 32: 1959-1972 (2012)

ホネくん

脳に送達したい医薬品に合わせて、利用するメカニズムも異なってきそうですね
機構は随分前から理解されているものの、実用化研究に世界中のDDS研究者が苦戦しているのが現状じゃ。

ミソ先生

まとめ

  • BBBを介した輸送経路は3つに分類される
  • 脂溶性低分子は “受動拡散”、水溶性低分子は “トランスポーター” が脳内輸送に関わる
  • 高分子は “トランスサイトーシス” が脳内輸送に関わる

血液脳関門は3つのメカニズムで物質を脳に供給している

追記)最近読んだ本です。知らないことが多すぎました。Tweetに気になった言葉をまとめていますので、興味ありましたらご覧ください。

 

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